外国語教育メディア学会(LET)関東支部第121回研究大会授業研究報告Topへ

指定討論者の湯舟先生から提示された、プレゼンテーション内容に対する一問一答集です。

  1. comprehension のために top-down 情報を利用させているか、そうであれば、どのようなモダリティーの情報をどのように与えているか、
     Comprehensionはもっぱら訳出によって行っています。これはテキストがtop-down情報を活用させるほどの難易度ではないこと、また単語の意味から確認しなければならないこと、そのため今回ご紹介した学生は、top-down情報を使う能力が低いことによります。たとえば、May I help you?を「私はあなたを助けましょうか?」と訳す学生に、「お店に入って最初に言われる言葉は?」と問いかけると、しばらく考えて「あ、お店で買い物している場面なんだ!」という気づき方をするのがよい例です。
  2. decoding process の自動化のため、音声学的な指導を取り入れているか、例えば、母音、子音、子音結合などのsegmental レベルや、弱化、連結、同化、脱落、短縮形などの音声変化について、もし敢えてそれらに触れていない場合は、その理由について、
    Struggling learersとは言え大学生ですから、何らかの形で英語音声に触れてきています。こうした学生は冗長な発音指導をするとすぐ飽きてしまいます。また、発音指導に時間をかける時間も十分ありません。先行研究の紹介をビデオでしましたが、海外の研究ではaudio assisted instructionがstruggling learnersのreading fluencyを促進するということが立証されています。実際モデル音声を聞きながら簡単なテキストを音読させると、音声にひっぱられて音変化を自然に再生してくれます。音変化に対応し、モデル音声と同じように読めるようになった後に、「ここは弱くなる音なんだけど、きちんと読めてたね」とほめてあげると、学生は喜んでいます。音声指導については、学力が低くともtop-down(帰納的)指導もありかもしれないと思っています。これを裏付ける理論に、「相転移」という考え方があります。
  3. 応用の授業での生徒の最終目標である products を、学生同士で評価させたり、または教員によるコメントや評価などのフィードバックは行っているか、いないか、いない場合はその理由について、
    当然行います。音読指導にはaudienceが不可欠であり、そういう意味でinteractiveでない音読指導はありえないと思っています。productsはDVDにしたり学内のサーバから配信したりしています。また活動の後には必ず鑑賞会を開いて、学期末には打ち上げもやります。こうして撮りためたビデオは翌年新入生にも見せて、取り組みの動機付けに使っています。
  4. from text to speech の能力育成に一つの力点が置かれているが、Phonics による指導という選択肢はとくに考慮しなかったか、その理由について、
     原初的な音読のモデルとして、Dual route cascaded modelが有名です。このモデルはつづりが規則的な語(規則語)と不規則な語(不規則語)のdecodeからspeechまでのプロセスを説明しています。さまざまな研究から、人間の脳は規則語と不規則語を別の回路で処理することがわかっています。このモデルを前提にするのであれば、フラッシュカードに代表されるwhole word processingの指導(不規則語指導)とphonicsの指導(規則語指導)を並行して指導するべきであるということになります。  これとは別に、語彙習得とリーディングの研究には、不規則語も出現頻度が高くなるにともない、decoding skillsが自動化することが知られています。  中学校に勤務していた時代、phonicsを大系的に教えていたことがあります。つづり字の規則を学ぶにしたがって、授業時間休み時間を問わず英語の教科書を広げてかたっぱしから英単語を読んでいく中学1年生の姿に、その効果の大きさを実感したものです。しかし、時が経つに連れてphonicsのデメリットも見えてきました。覚えなければならないつづり字の規則が増えるにしたがって、phonicsを負担に感じるようになったのです。つまりrule orientedな取組に終始すると、phonicsのメリットが薄れていくということです。 また、phonicsは単語の読みが活動のメインであり、文理解文章理解に移行するまでにかなりの時間を要します。英語学力は別として、どのような学力レベルであろうとも大学生は大学生なりのプライドを持っています。その学生を相手にphonicsで単語の練習をする活動は、学生の自尊感情を害する上に、rule orientedな活動は、学力総体が未発達なstruggling learnersには負担となります。  今回発表した内容は、一種のリメディアル教育という位置づけを持った授業実践事例です。扱う教材は英検3級のリスニング問題です。このレベルと量のテキストでは、つづり字の規則を扱えるほど十分な語彙がありません。そしてこの程度の英文は、目にした瞬間にすぐ発音できるようになっていてもらわないとその先に進めないレベルです。そうした意味でphonicsには取り組んでいません。  ちなみに、phonicsは大学生なら独習でもできますので、必要に応じて「英語足し算プリント」をダウンロードさせて学習させています。足し算プリントはいわゆるphonicsとは若干異なり、ある単語を覚えてその単語の前か後につづり字を付け足すことで新しい単語を学ぶというようにしてあります。
  5. この授業実践で利用する範囲において SpeaK! の機能に満足しているか、そうでない場合はどのような点で改善を望むか、特に、Text-to-Speech 機能と、単語レベルでの読みの評定の完成度など、
     学生はおおむねSpeaK!に満足しています。放っておくと90分の授業まるまるSpeaK!と過ごすことも珍しくありません。評価項目いずれも高い評価をしています。しかし、自分の声を聞きなおすというのは恥ずかしいらしく、あまりやっていないようです。自分の音読音声をモニターする活動の効果は、今後検証していきたいと思っています。  SpeaK!の機能に対する印象は、アンケート調査を済ませてあります。使いやすさや機能について、学生はかなり好意的にとらえています。Struggling learnersが英語学習の敷居をまたげるようになるには、単語の発音ができること、意味がわかることが大きなポイントとなります。読めない単語、意味のわからない単語が限りなく多く、それが原因で英語学習を投げ出さざるを得ないstruggling learnersにとって、単語の発音を確認することができ、意味も表示してくれるSpeaK!は学生たちの強い味方です。  さらに音読能力をビジュアルに評価してくれる機能は、学生の学習動機を喚起し、少しでも良いスコアを出そうとやっきになります。繰り返し音読の研究にSpeaK!を使いましたが、繰り返し練習するにつれてスコアが上がることを検証しています。
  6. この授業を受けた学生の感想やアンケート等があれば提示して欲しい、
     ビデオにしてありますので、時間があればご披露いたします。
  7. 音読させる際、チャンキングに何らかの考慮をしているか、
     これは個別指導の際行います。モデル音声を聞くだけでは音読が上達しない学生がおりますので、その場合まずsense groupごとにスラッシュを入れて読ませます。それ以外の学生は、モデル音声を聞きながら自分たちでチャンキングを自然に行っています。これがcomprehensionの度合いとどのような関係にあるかは現在検証中です。
  8. PC教室やCALL教室でない場合はどうしたらよいか、
     基本的に考えられませんが、使えない場合は旧来のスタイルで、一斉音読をベースに行います。しかし、グループワークで教えあったり、お互いの音読を評価しあうなどできるだけinteractionのできる環境を作り出します。
  9. 繰り返し音読によるリスニング以外の副次的効果として、語彙連語、文法項目の内在化、その他の能力の伸長は観察されるか、
     筆記テストのスコアも半年で合格圏内に入りました。先行研究にもあるように、音読におけるfluencyがある程度形成されたので、comprehensionに集中できるようになったこと、読速度が向上したことなどが予測されます。文法項目の内在化は、比較的早い音読では実現しないと考えています。なぜならモデル音声と同じ速度で音読する場合、音声に対する意識および、テキストの概要理解に学生は集中していると考えられるからです。このように音読は、速度によってその効果が変わり、もし文法項目の内在化を進めるのであれば、筆写、暗唱、暗写などを取り入れ音読の速度を落として指導するのがよいと思います。語彙に関しては、付随的学習(incidental learning)を実現するほど、それぞれの語彙に関してその出現頻度は高くないため、ほとんど期待できません。 Struggling learnersの場合、単語を音声化する活動と内容を理解する活動を交互に行います。単語を音声化し知っている単語なら意味を日本語で思い出し、内容理解をしようとします。この際その単語の発音を覚えていればよいのですが、出現頻度の低い単語ですと、次に出てきた時にまた同様の作業を繰り返します。だからすでに覚えている単語でも、発音が不確かな場合、すぐに意味が出てこないわけです。Struggling learnersは音読にしても内容理解にしてもきわめてのんびりしか進まないため、定着も遅れます。Samuels (2002)ではこの現象をA divide and conquer strategyとして紹介しています。 ここでご紹介したモデル音声を聞きながら繰り返し読みに取り組むことの意義は、せめて知っている単語の発音だけでも即座に再生して意味を引き出せるようにしてもらうことだと考えています。それだけでもcomprehension能力はそれなりに向上します。 ただし、シャドーイングのビデオを撮った学生に関しては別格です。往復の通学で必ず聞くように指示してありますから、収録までには数千回同じ音声を聞いていることになります。90分間ビデオを回しっぱなしだった学生は、「diabetesだけはぜってー忘れねー」と収録直後語っていました。これだけの回数を繰り返して練習すると、語彙は自然に定着していきます。
  10. 学生が decoding 能力を身に付けていく段階で、何らかのストラテジーが観察されるか、または、教師が提示したりするか、
     シャドーイングの取組では、intensiveな訓練を行いますので、その都度指導します。また、パフォーマンスを録画する場面でも暗記情報に依存しないように指導をしています。パラレルリーディングの取組では特に指導するstrategyはありませんが、音読の結果どのような効果があるのかは、定期的なテストで教師学生ともに確認します。音読はメタ認知を形成しやすい活動である(高山, 2008)と指摘されますが、音読をやるとリスニングができるようになるなどのメタ認知形成は、学生の学習動機を継続させる上でも重要です。
  11. PC相手の訓練時間が長引いても、飽きや疲れを見せる学生はいないか、
     まったくありません。90分でもやっています。しかし、他にも取り組ませたい課題がありますので、頃合をみて切り上げさせます。Less is moreというところでしょうか。
  12. この授業活動で教師が一番苦労することは何か、
     授業開きでの一喝及び、機材が使えるようになるまでの気の長い指導を通り越せば、あとは学生たちが自分で勉強をしてくれます。
  13. 今後はどんな授業に発展させたいか、
     一応音読は一生懸命やるようになりました。テストもいやがらなくなりました。暗唱や暗記もいやがらずにやるようになりました。今後は学生が心を躍らせたり熱くしたりするような教材を開発し、「早く次の教材を読みたい」と学生たちに思わせるような授業や、英語を使った自己表現活動などに発展させていきたいと思います。
  14. 鈴木先生にとって、音読授業とは、CALLとは、リメディアル教育とは、
     これらは三位一体で、中学高校まででなくした自信を取り戻すことのできる指導分野だと思います。学生たちは、自分の価値に気づくことで初めて仲間や周りの人たちの価値に気づくようになります。英語の勉強をやり直しながら、自分の成長をやり直すという教育本来の意義を実現する指導だと考えています。